親や親族が亡くなった時、避けては通れないのが遺産相続手続きです。「遺産相続の手続きを自分で済ませたいけれど…」「遺産相続手続きはやっぱり弁護士等の専門家に任せるべき?」と迷う人も多いのではないでしょうか。
ここでは遺産相続の際に必要となる手続き一覧をリスト化しつつ、遺産相続手続きを自分で行うのか、弁護士等の専門家に頼むのかを考えるポイントを解説していきます。「遺産相続を自分でやりたい」とお考えの方、一度目を通して参考にしてみてください。
目次
遺産相続は自分でできる?
遺産相続手続きを自分でできるかどうか?という質問についてですが、結論から言うと「遺産相続は自分でできる」が正解です。ただし「不可能ではないが、難易度が高く、あまりおすすめはできない」「実際に自分だけで遺産相続手続きを行う人はとても少ない」という注釈が付きます。
なぜ遺産手続きを自分で行う人が圧倒的に少ないのか?それを知るために、まずは遺産相続に必要な手続きをチェックしてみましょう。
遺産相続の手続き全リスト
遺産相続の際には、以下に述べる手続きが必要となります。
1.戸籍謄本の取得
親族が亡くなった時、まず最初に行わなくてはならないのが戸籍謄本(こせきとうほん)の取得です。戸籍謄本とは、戸籍の記載内容を証明する書類のこと。遺産相続の場合、遺言書関連や相続人調査、預貯金の名義変更、相続税申告等、様々なシーンで戸籍謄本が必要になります。
【手続きを行う窓口】戸籍のある自治体(市区町村)の役場
【取得費用】一通あたり450円~750円
【取得方法】窓口での手続きまたは郵送
【必要なもの】本人確認書類、請求者と対象者の関係を確認可能な書類、申請書、代理人委任の場合には委任状
故人(被相続人)の戸籍謄本
戸籍謄本は、本籍地の変更や結婚、転籍、養子縁組等、戸籍の内容の変更などが行われると、新しく作り直されます。ですから遺産相続の手続きの場合、亡くなった方(被相続人)の戸籍謄本は、生まれてから亡くなるまで、そのすべての謄本を取得しなくてはなりません。
最初に故人の最後の戸籍謄本を本籍地の自治体役場で取得しましょう。謄本には以前の本籍地住所が記されていますので、そこから過去へとさかのぼっていきます。おおむね4~6種類程度の戸籍謄本(または除籍謄本)の取得が必要となるケースが多いです。
相続人の戸籍謄本
子・孫等の直径尊属が相続人となる場合でも、結婚をしていれば戸籍が変わっています。そのため被相続人の戸籍謄本だけでは不十分なので、相続人自身の戸籍謄本の取得も必要になります。
故人の両親の戸籍謄本
故人の兄弟・姉妹等が相続人となる場合等には、被相続人の両親の戸籍謄本、ならびに祖父母の死亡確認ができる戸籍謄本の用意が必要となります。
2.遺言書の探索と検認
遺言書(ゆいごんしょ)とは、亡くなった方が遺した遺産についての希望・意思を示す書類です。財産目録以外をすべて自筆作成した「自筆証書遺言」または公証役場で作成した「公正証書遺言」があります。
相続手続きにおいては、これらの遺言書の探索・確認が非常に重要です。「遺言書は無いはず」と思い手続きを進めていたら、あとから遺言書が出てきた…こうなると、今までの手続きはすべてやり直しとなってしまいます。例えば遺言書で遺言執行者が指定されている場合、たとえ親族以外であっても相続お懐紙を遺言執行者に知らせなくてはなりません。遺言書はしっかり探索することが大切です。
自宅の調査
故人のご自宅の中に遺言書が残されているケースは意外と多いです。遺品整理をしている時に遺言書が見つかった…ということも。遺産相続という観点から考えると、故人のご自宅(または自室)の遺品整理はできるだけ速やかに行う必要があります。
親族・友人・知人
信頼のおける第三者に遺言書を託しているケースもあります。故人の人間関係をしっかり当たっておいた方が良いです。
法務局への保管の確認
近年では「自筆証書遺言書補完制度」が制定され、遺言書が法務局で保管できるようになりました。故人がこの制度を利用されていた場合、法務局に遺言書が預けられている可能性があります。
公正証書遺言の確認
公正証書遺言の作成・保管は、公証役場が行っています。最寄りの公証役場に問い合わせ、遺言書が無いか確認しておきましょう。
【自筆遺言書は検認が必要】
自筆遺言書については、発見してすぐに開封をしてはいけません。家庭裁判所での「検認」という手続きが必要になります。検認の申立は、故人の最後の住所を管轄している家庭裁判所で行います。
検認申立に必要なもの
- 検認申立書(作成方法・書式は裁判所サイトを参照)
- 故人の戸籍謄本(生まれてから亡くなるまですべて)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 郵便切手(連絡用)
- 収入印紙(800円)
3.相続人の調査・確定
遺産相続の場においては、相続人となる人間が誰になるのかを「全員」リストアップしないといけません。まず民法における法定相続人と相続順位を見てみましょう。
配偶者:必ず相続人となります
↓
第1順位:直系卑属(子や孫、ひ孫など)
第一順位は配偶者ともに必ず相続人になります。
子が死亡している場合は孫が相続人です。
↓
第2順位:直系尊属(父母や祖父母、曾祖父母など)
第2順位は、第1順位にあたる人がいない場合の相続人です。
祖父母が亡くなっている場合、曽祖父母が第2順位に当たります。
↓
第3順位:兄弟姉妹
第3順位は、第1順位・第2順位に当たる人がいない場合の相続人です。
兄弟姉妹が亡くなっている場合には、その子である甥・姪が第3順位に当たります。
故人の子・孫に当たる人物が居ないかは、丁寧に探索していく必要があります。「前の結婚の時に実は子どもが居た」「婚外子(非嫡出子)が居た」といったケース、実は珍しくありません。そのために、最初の工程で「生まれた時から死ぬまですべての戸籍謄本」を取り寄せ、認知している子供が居ないかといった確認を行う必要があるのです。
相続人の探索・確認の調査を中途半端にしていた結果、後から「孫」が出てきて、相続分割の手続きがすべてやり直しになるといったケースも実に多く見られます。相続人調査・確定は綿密に行いましょう。
4.相続財産の調査
遺産相続の手続きを行うにあたっては、まず故人がどのような財産をどの程度有していたのかを明確にする必要があります。財産等の資産、借金等を含む債務を確認していきましょう。
主な財産の種類と確認方法の例
- 貯金:金庫の中の通帳、銀行カード、引き落としについての郵便物等
- 現金:自宅金庫等
- 不動産:登記簿、固定資産税の通知書、各種権利書
- 借地権:賃貸借契約書、登記簿謄本、不動産管理会社との契約書等
- 株価証券、有価証券:金庫の中の証券類、通知書、証券会社への確認
- 骨董品:自室、別荘の探索
- 貴金属品・宝石:自室、別荘等の探索
- 自家用車:駐車場、車検証の確認
自室の探索は必須
相続財産の調査にあたって、故人の自宅・自室の探索は必須と言えます。届いている郵便物等から生命保険の加入状況等を確認したり、金融機関等の借入金、クレジットカード等の使用状況なども確認しなくてはならないためです。また故人が故人で事業経営をしていた場合、取引先との支払状況等を確認しておく必要もあります。
マイナスの遺産(借金)に要注意
遺産は必ずしもプラスのものばかりとは限りません。クレジットカード会社からの借り入れやローン、取引先への支払い債務等、マイナスとなるものもあります。
気をつけておきたいのは「プラスの遺産は受け取ってマイナスの遺産は受け取らない」という選び方ができないという点です。「遺産相続する」と決定した時点で、マイナスの遺産も相続人が背負わなくてはならなくなります。
そのため、故人の相続財産の調査は徹底して行う必要があるのです。子や孫に「借金がある」と言えないままで亡くなる方は大勢居ます。知らずに遺産相続をしてから債務があることを知り、「こんなはずでは」と驚くケースは珍しくないのです。
マイナスが多い場合は相続放棄
遺産は必ずしも相続をしなくてはならないわけではありません。相続人の意思によって「相続放棄」もできます。借金等のマイナスの資産が多い場合には、相続放棄を視野に入れた方がよいでしょう。
なお相続放棄ができるのは「相続資格を得たと知ってから3ヶ月以内」です。できるだけすみやかに相続財産調査をスタートさせましょう。
5.遺産分割の協議・協議書の作成
遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)とは、遺産をどのような分け方をするか、相続人全員で話し合うことを言います。次のような場合には、相続人全員による遺産分割協議の手続きが必要となります。
- 遺言書の指定に相続人が納得していない
- 遺言書が無く、法定相続割合に相続人が同意していない
遺産相続協議は、協議人全員での協議でなくてはなりません。例えば「相続人が行方不明だから」と1名だけを除いた協議を行っても、その協議は無効です。
相続の協議がまとまり次第、協議書を作成します。なお相続人が多数で出席が難しい、話がなかなかまとまらない場合は、家庭裁判所で調停を行うこともできますが、この場合には弁護士による手続きが必要です。
6.相続税の申告
一定の条件を超える場合には、相続した遺産に対して相続税の申告が必要となることがあります。
【平成25年度税制改正以降の相続税の申告】
以下の基礎控除を越える額を遺産相続した場合、相続税申告を行う。
基礎控除額=3,000万円+(600万×法定相続人の人数)
例えば相続人が二人であれば4,200万円以上、三人であれば4,800万円以上であれば相続税申告の必要が出てくるというわけですね。
なお相続税は相続開始後10ヶ月以内であれば、軽減措置を受けることもできます。相続する遺産の額が大きい場合には、できるだけ速やかに遺産分割協議を終え、相続手続きをすすめておくことが大切です。
遺産相続を専門家に依頼すべき3つの理由
遺産相続は「論理的には自分でできる手続き」です。しかし最初の項目で述べたとおり、初めて法務手続きに当たる人が自分だけで遺産相続を行うのはとても困難であり、専門家に依頼すべき案件と言えます。これはなぜなのでしょうか。
手続きが多くミスしやすい
上の「遺産相続の手続きリスト」を見て、その手続の多さに驚いたという人も多いのではないでしょうか。遺産相続では様々な調査、書類の取得、役場での手続きなどが必要になります。初めての人にとってはわからないことだらけで、ミスも多いことでしょう。
遺産相続手続きは法律に則った手続きですから、ひとつのミスも許されず、やり直しを繰り返すことになります。多くの時間と手間を遺産相続手続きにかけなくてはなりません。
調査の抜けで「やり直し」になるリスク
相続人調査や資産調査などが不足しており、後から法定相続人や別の資産などが見つかると、すべての手続をイチからやり直しすることになります。特に資産調査等は、慣れていない方だと抜けが多く、これが後の遺産分割協議を長引かせる原因にもなります。
遺産分割協議での親族トラブル
遺産分割協議を親族同士が行うと、思わぬ感情的なトラブルとなってしまうことは珍しくありません。代理人として弁護士などが間に立つことでお互いが冷静になり、スムーズに協議が進むケースは非常に多く見られます。
期限に間に合わない恐れ
もっとも問題なのは「調査や協議が長引いて、期限に間に合わなかった」というケースです。例えば上でも触れましたが、相続放棄の期限は「3ヶ月」と定められています。
自分で調査を行った結果3ヶ月以内に放棄手続きができず、おもわぬ親の債務を抱え込むことになった…このようなことになるリスクを検討しておくべきです。
遺産相続で頼るべき「専門家」とは
では遺産相続では、どのような「専門家」に依頼をするべきなのでしょうか。
弁護士
弁護士は遺産分割協議や交渉の代理等、遺産相続に関する様々な手続きを処理してくれる存在です。近年では相続人調査、相続財産調査等にも対応し、フルサポートができる弁護士も増えました。次のような場合には、すみやかに弁護士への依頼を検討した方が良いでしょう。
- 法定相続人が多数居る
- プラスの遺産の額が大きい
- 法定遺留分に納得していない法定相続人がいる
- 遺言書での相続人が一名のみである
- 顔を合わせたことのない相続人が居る 等
弁護士費用の目安
- 協議・交渉の代理:30万~50万+報酬金
- 法定相続人調査:20万~
- 相続財産調査:20万~
「相続人同士ですでにトラブルが起きている」「起きる可能性が高い」という時ほど、後の裁判や調停等を想定して弁護士に相談しておいた方が良いです。
税理士
税理士は相続税の申告等、税務の手続きを代行する専門家です。前述した「相続税の基礎控除」を越える額を相続する場合には、税理士に相談をしておきましょう。
税理士費用の目安
- 遺産相続の0.5%~1%程度
司法書士
不動産の名義変更(相続登記)などの手続きができるのが司法書士です。また近年では不動産関連の手続きだけでなく、戸籍謄本の取得等の代行を行う司法書士の事務所も登場しています。
- 相続登記手続きだけ行いたい
- 相続税の申告がない
- 相続人が非常に少ない
- 相続人同士でのトラブルの危険性が無い
上記のような場合には、司法書士に依頼をしても良いでしょう。ただし万一裁判所での調停等が必要となった場合には、改めて弁護士への相談が必要になります。
税理士費用の目安
- 相続登記の手続き費用:5万円~10万円前後
- 相続人調査・相続財産調査等:10万円~
遺品整理業者
遺品整理業者とは、ご遺族にかわって故人の住居・自室を片付け、不要なものは片付け、必要なものを分類してまとめる作業を行う業者のことを言います。自室の通帳や貴金属品等の貴重品類、その他郵便物等の探索なども依頼ができます。
- 故人の自室が片付いていない
- 故人の部屋に入るのが辛い
- 荷物が多く片付けや整理ができない
- 故人の家が遠く片付けに行く時間がない
上記のような場合には、故人の資産・債務状況を確認するためにも、すみやかに遺品整理業者に片付け・探索を依頼した方が良いでしょう。
遺品整理業者費用の目安
- 1R~1K:30,000円~100,000円
- 1LDK:70,000円~200,000円
- 2LDK:100,000円~240,000円
※片付ける荷物の量によって変動する業者が多い
※買取可能な製品が多い場合は相殺される業者が多い
上でも述べましたが、あとから「親族の知らない通帳」や「価値ある貴金属品」等が出てくると、せっかくまとまった遺産分割協議もすべてやり直しになってしまいます。また万一の「マイナスの資産」が無いかをよく確認するという意味でも、早めの遺品整理に取り組むことが大切です。
おわりに
遺産相続を自分で行うか、弁護士等の専門家に依頼をするか…この回答は「どちらが正解だ」と言えるものではありません。
しかし、遺産相続にまつわる手続きが非常に煩雑であることに加え、親族にはこの他にもライフラインの停止手続きや保険手続き等、故人の死亡にまつわる様々な手続きがのしかかってくることは否定できません。
「少しでも手間や労力の負担を減らす」という意味においても、遺産相続の手続きでは専門家を頼ることを視野に入れてみてはいかがでしょうか。