孤独死が増えている昨今、賃貸物件における原状回復費問題のトラブルは増加傾向にあります。連帯保証人となり、高額な原状回復費用を請求されたがどうしたら良いか…と遠方の親族が悩んだり、反対に大家さん側が原状回復費用の負担について困るケースも珍しくありません。
まずは孤独死で連帯保証人が負う「原状回復費用」について、正しい知識を持つことが大切です。ここでは孤独死の際に連帯保証人が負う原状回復費用の範囲や料金について、詳しく解説していきます。
目次
連帯保証人が負うべき原状回復費用とは
出典:第6回孤独死現状レポート
まずは大家・不動産管理会社側が連帯保証人に請求可能な原状回復費用の範囲について見ていきましょう。
家賃(共益費、管理費)
最初に賃貸物件の家賃です。賃貸借契約は契約者本人の死亡では終了せず、相続人または連帯保証人が引き継ぐことになります。
これは明け渡しが完了し、賃貸借契約が完了するまで発生します。共益費や管理費があれば、これも同様です。原状回復費用の負担について揉めたり、残置物撤去等の対処が遅れて明け渡しが延期されると、それだけ多くの家賃負担が連帯保証人に課せられることになります。
連帯保証人側が支払うべき家賃の額を抑えるには、できるだけ早く「明け渡し」をすることが大切というわけですね。
明け渡しのための費用
次に明け渡しのための費用です。明け渡しのための費用は孤独死等に関わらず一般的な「引越」でも発生するものですが、孤独死の場合には注意しておくべきところもあります。
残置物撤去
残置物撤去(ざんちぶつ・てっきょ)とは、部屋の中の家具や家電、日用品等を明け渡し日までにすべて撤去して「空っぽ」の状態にすることを言います。この費用は借主側(この場合には連帯保証人)が負担します。通常の引越と同じ考え方です。
ただ孤独死の場合、部屋の中の悪臭や家具・家財の汚損等もあるため、一般的な引越業者や親族だけでの残置物撤去が難しいケースがほとんどです。孤独死等も対応可能な不用品回収業者や、遺品整理業者等にまとめて残置物撤去を依頼することになります。
内装の交換
孤独死による汚損などに関わらず、室内カーペットや畳、壁紙等の交換の費用は借主(この場合には連帯保証人)が負うことになります。ただしこれらの費用負担は減価償却により、6年が経過していれば借主側が0円となるのが法的な考え方です。
孤独死による原状回復・復旧費用
孤独死は発見までに時間がかかるため、ご遺体の腐敗などによる悪臭、また家屋の汚損等が起きることがほとんどです。これらの原状回復費用も、連帯保証人に請求される範囲内となります。
- 腐敗臭による消臭作業
- 体液等による畳・カーペット・フローリング等の汚損による交換
- 柱・床・風呂・トイレ等のリフォーム代金(汚損箇所)
なおこれらの料金は全額が連帯保証人負担となるわけではありません。上記「内装の交換」でも解説したとおり減価償却の問題があるため、ある程度は大家側の負担になるわけです。費用の負担割合については、後の項目で詳しく解説します。
損害賠償費(死因等による)
自殺、殺人等に起因する孤独死の場合、大家側から連帯保証人に対し、事故物件となったことによる「損害賠償」を求められるケースもあります。また、死因が自然死であった場合でも、借主本人(故人)および連帯保証人側の何らかの過失があった場合等には大家側から損害賠償請求が行われることがあります。
孤独死発生における原状回復の方法とは
次に、実際に孤独死が発生した場合、原状回復までにどのような作業が行われるのか、その方法について見ていきます。
残置物の撤去(遺品整理)
部屋の明け渡しまでには、借主死亡後の室内にあるすべての家具・家電や衣類・食器等の日用品、生活用品の撤去を行う必要があります。
汚損した遺品の処分
腐敗したご遺体から出た体液は、布団などの寝具、衣類等、様々なご遺品に付着しています。これらの残置物は悪臭処理等を考えながらできるだけ速やかに処分しなくてはなりません。
大型家具・家電の搬出
一般的な引越と同様、大型家具・家電の搬出には人手と労力がかかります。物件共用部を傷つけないよう、養生処理も必要です。家具の大きさによっては吊り下げ作業等が行われることもあります。
その他遺品の分別・処分
その他のご遺品も分別・整理を行い、不用品については処分していきます。親族ご自身が処分を行う場合、処分方法は各自治体のごみ処理のルールに則って行わなくてはなりません。遺品整理業者等、専門業者に依頼をする場合には、不用品処理は一括で依頼できます。
貴重品や愛用品等の取りまとめ
ご遺品の中でも通帳や現金、その他価値ある物品については別途取りまとめておくことが大切です。また遺品整理専門業者の場合、故人の愛用品等の指定物品の探索を行える業者も多数あります。
【孤独死の遺品整理は専門業者の作業が一般的】
孤独死の場合、残置物の撤去作業(遺品整理作業)は通常よりも物理的・心理的負担が大きくなります。特殊清掃が完了するまでは悪臭が残ることがほとんどですし、近隣住民への配慮も考え、窓を開けての作業等も行えないためです。
このような事情や、核家族化により遠方に住まうご家族では遺品片付けが難しいこと等から、孤独死における残置物撤去については専門の不用品回収業者・遺品整理業者に依頼をすることが一般的となっています。
特殊清掃
特殊清掃とは、孤独死・事故死等によって汚損した部屋の清掃を行う清掃作業のことを言います。一般的な清掃(ハウスクリーニング)とは異なり、ご遺体の腐敗・腐乱等によるダメージに対処する点が大きな特徴です。
体液処理
血液、糞尿等の体液は、床・壁等に付着・浸透しやすいです。体液処理ではこれらを除去していきます。
特殊クリーニング
風呂場・トイレ等で故人が亡くなられた場合、浴槽やトイレ部分の清掃だけでなく、下水管部の消毒・消臭等が必要になります。
消臭作業
孤独死の場合、ご遺体の腐敗によって腐敗臭が室内にこもり、匂いが部屋全体についてしまいやすいです。そのためオゾン消臭等の消臭作業は必須となります。
リフォーム
ご遺体発見までの日数によっては、家屋の汚損が激しく、より専門的なリフォームが必要となることもあります。
壁紙交換・壁材交換
体液等が壁紙・壁材に染み込んでいる場合、消臭作業だけでは匂いを除去することができません。この場合には壁紙・壁材等の交換を行います。
床材交換
畳・カーペット・フロア等の床材に体液等が浸透している場合、床材交換も必要です。ご遺体の状態によっては一部交換で済むこともありますが、腐乱が激しく、害虫誘発の恐れがある場合等は、床材の全面交換が求められる場合もあります。
床の切りはずし
ご遺体発見までの日数や季節によっては、床の表面だけでなく、そのさらに奥にまで体液が浸透してしまっている場合があります。この場合、床材交換だけでは匂いが完全に落とせないだけでなく、ハエ・蛆虫等の虫の発生が起こる可能性があります。そのため床の一部の切りはずしを行い、問題となる部分を撤去します。
浴槽の撤去・交換
故人がお風呂場で亡くなられ、ご遺体の損傷が激しいと、クリーニングでは浴槽のダメージが取り除けない場合があります。この場合には浴槽交換等のリフォームを行います。
便座・便器の交換
故人がトイレで亡くなられ、ご遺体発見までに日数がかかると、特殊クリーニングだけでは便座・便器のダメージが除去できないことがあります。この場合、便座交換・便器交換等のリフォームを行います。
原状回復のために必要な料金
孤独死による賃貸物件の現状回復には、どの程度の料金が必要となるのでしょうか。
特殊清掃・リフォーム
特殊清掃やリフォームを含む原状回復に必要な費用は、2015年~2020年までのデータですと、平均価格が約30万円となっています。
ただしこの必ずしもこの価格帯で料金決まるわけではありません。最小損害の事例では10,000円以下というごく少額なのですが、最大損害の事例は400万円以上という高額となる事例もあるため、一概に「清掃費用はいくらで済む」と言えないのが実情です。
ご遺体発見日数等で料金が大きく変動
特殊清掃・リフォームの料金は、ごくカンタンに言ってしまえば「ご遺体による汚損の程度」で大きく変動します。孤独死の場合でも即日等でご遺体が発見された場合、家屋のダメージがほとんど無いため、軽い消臭作業程度で済むケースもあるのです。
しかし反対にご遺体発見までに日数がかかり、体液が床の深部にまで到達している場合等にはクリーニング(清掃)だけでなくリフォーム(工事)が必要となるため、現状回復にかかる料金は大幅に上がることになります。
残置物撤去・遺品整理
孤独死による残置物撤去・遺品整理にかかる費用は、2015年~2020年までのデータですと、平均価格が約22万円となっています。ただし特殊清掃・リフォーム価格と同様、こちらも平均額が目安となるわけでは残念ながらありません。最少額はやはり一万円以下、最大額50万円以上と、料金には大きな幅が見られます。
荷物の量で料金が変動
遺品整理・残置物撤去の料金については、部屋数によって大まかに料金目安を出している業者も多いです。
【遺品整理の料金相場目安】
1R~1K | 50,000円~80,000円 |
---|---|
1DK~2K | 90,000円~130,000円 |
1LDK~2DK | 130,000円~170,000円 |
2LDK~3DK | 170,000円~210,000円 |
3LDK~4DK | 210,000円~250,000円 |
4LDK以上 | 250,000円~ |
ただし上記はあくまでも「一般的な荷物(家財)の量」の場合です。大型家具や家財の量が多かったり、ゴミ屋敷等の場合には撤去する荷物量が増えるため、それだけ料金は上がります。また、エレベーターの有無等によっても料金は変動します。
【無料訪問見積もりOKの業者を選ぶ】
孤独死があった部屋を原状回復させる特殊清掃・リフォーム・残置物撤去の料金は、上記のように「室内ダメージの程度」「荷物量」等の様々な要素で大きく変動します。
そのため、費用概算を正確に把握するためにも、実際に現状を見てから見積もりを出すタイプの「無料訪問見積もり」を行う特殊清掃業者・不用品回収業者(遺品整理業者)を選んだ方が良いでしょう。
【特殊清掃・遺品整理をまとめて行う業者を選ぶ】
孤独死の片付けを行う業者の中には、「特殊清掃のみ」を専門とする業者もあれば、「特殊清掃・残置物撤去・リフォーム」をまとめて行える業者もあります。
原状回復に必要な工程をすべてまとめて依頼できる業者の方が、平均的に料金を安く抑えやすいです。また特殊清掃と残置物撤去を一社で並行して行うことが、よりスムーズで迅速な原状回復にも繋がります。
原状回復費用を抑えるという点でも、また近隣の方へのご迷惑を最小限に抑えるためにも、特殊清掃・遺品整理・リフォームの全行程対応ができるタイプの業者が最適と言えます。
原状回復費の負担割合について
原状回復にかかる費用は、故人の相続人または連帯保証人に対して請求を行うことが可能です。ただし上でも述べたとおり「減価償却」という問題もあるため、全額を連帯保証人が支払うことは稀であり、大家側(不動産管理側)と連帯保証人各々が料金を負担することになるのが一般的です。
なお原状回復費用の負担割合は、次のような要素で変動するケースが多く見られます。
故人の死因
死因が自殺の場合には借主側の過失があると認められ、現状回復費用の負担割合は借主側(連帯保証人)が大きくなりやすいです。
病死・自然死の場合には借主に過失・責任は無いため借主側の全額負担となるケースは少ないです。損傷部・汚損部の原状回復費は借主側が負担し、その他部分の費用は大家側が負担するケースが多く見られます。
死亡前の部屋の状態
いわゆる「ゴミ屋敷」の問題です。故人が亡くなる前に部屋が「ゴミ屋敷化」をしていた場合、孤独死の有無に関わらず、すでに悪臭や虫害(ゴキブリの発生等)といった問題が出ていた可能性は高くなります。これらは借主側の過失と考えられます。
そのため残置物撤去費用のみならず、クリーニング費用、消臭費用等が借主側(連帯保証人)の負担となるケースも多く見られます。
その他
大家から再三の連絡があったにも関わらず親族および連帯保証人と連絡が取れずご遺体の発見が遅れる等、連帯保証人側の過失によって室内の汚損状況に悪化が見られた場合には、連帯保証人側に原状回復費の負担を大家が求めるケースが多く見られます。
【賃貸借契約書をよく確認しよう】
借主本人の死亡による原状回復費用について、賃貸借契約書で既に定められている場合には、その契約内容に従うのが原則となります。まずは故人(借主本人)が賃貸物件を契約した際に締結した賃貸借契約書の内容をよく確認しましょう。
【大家・連帯保証人双方で冷静な交渉を】
借主の子・孫等の「相続人」の場合、遺産の相続放棄の手続きを正式に行えば、賃貸物件の原状回復費を負担する責任は無くなります。しかし賃貸借契約の「連帯保証人」となっている場合には相続放棄では責任を免れることができません。
負担割合等の話し合いが長引いたり、部屋に残置物をいつまでも残しておけば、それだけ多くの家賃が発生し、その負担も連帯保証人に課せられることになります。
早期的に冷静な交渉を行い、双方の負担割合を締結しましょう。「あまりにも高額な費用を一方的に請求された」「負担割合の話し合いができない」といった場合には、弁護士等の専門家に早めに相談することをおすすめします。
おわりに
孤独死の原状回復費用の料金ならびに費用負担割合については、上記で解説したとおり、室内の汚損程度等、個々の事例による差が大きく見られるのが特徴です。そのため「連帯保証人がいくら払うのか」を一概に示すのは難しいところがあります。
とは言え、連帯保証人側が過大な債務を全額負担する必要はほぼありません。過大な損害賠償請求等があった場合にも鵜呑みにせず、専門家に早めに相談をしながら交渉を進めていくことが大切です。