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相続放棄で遺品整理NGに?相続放棄の6つの注意点

相続放棄申述書

親や親族が亡くなった時、資産や負債を相続するかどうかを悩む人も多いことでしょう。特に負債が多い場合には「相続放棄(そうぞくほうき)」を考える人がほとんどのはずです。

しかし相続放棄は適当に判断して行って良いものではありません。相続放棄をすると遺品整理ができなくなる等、デメリットもあるからです。ここでは「相続放棄」の内容や手続き、遺品整理との関連性等について、法律初心者にもできるだけわかりやすく解説をしていきます。

「相続放棄」で借金だけ放棄するのはムリ?

まず「相続放棄とは何か」ということから知っていきましょう。相続放棄(そうぞく・ほうき)とは、その名称のとおり「遺産の相続を放棄する(相続する権利を捨てる、辞退する)」という意味の法律用語です。

相続放棄をした人は、遺産のすべての相続権を手放し、一切の相続を行いません。相続放棄は、主に次のようなケースで使われます。

相続放棄をするケース
1)被相続人(亡くなった親や親族のこと)の負債が多い場合
遺産には負債(借金等のこと)も含まれます。借金がたくさんあるのに、わざわざその返済義務を子ども・孫が相続するのは大変ですよね。そのため負債が多い場合等、相続に魅力が感じられない場合には、相続人(子や孫)が相続放棄するケースが多いです。

2)後継者等の一名以外が相続を辞退する場合
例えば「長男・長女・次女」という三兄弟が相続人であったとしましょう。この中で長男が家業(旅館等)を継いでおり、残された現金等の資産は少なめです。兄弟で遺産を三分割すると、家業を潰さなくてはならなくなります。

このような場合、家業の経営を安定・存続させるため、後継者以外の兄弟が遺産相続を辞退するケースも多く見られます。後から法定遺留分(法律上の相続の権利)でトラブルにならないよう、後継者以外は「相続放棄」の手続きをしておくと安心です。

プラスもマイナスもすべて放棄する

「相続放棄」の場合、手続きをした人は故人の遺産のすべての相続権利を手放すことになります。つまり「200万の借金は相続したくないけれど、1,000万の現金は相続したい」といった選び方はできないわけです。

これは現金や不動産のみならず、故人の「すべての遺産」に及びます。家具や車などに至るまで、資産価値があるものはすべて受け継ぐことができません。相続放棄を決める前に、その点には十分注意しましょう。

なお相続によって得たプラスの財産の限度で、債務の負担を引継ぐという「限定承認」という手続方法もあります。しかし相続人全員の許諾が必要となるほか、手続きが非常に煩雑となるので、あまり現実的とは言えないのが実情です。

相続放棄は3ヶ月以内に法的手続きが必要

近年では「相続放棄」の存在だけが有名になった結果、親族などに対して「相続放棄するから!」と口で言っておしまいにしてしまう……というケースも多く見られるようになっています。残念ながら、相続放棄は「周囲に放棄すると言えば良い」というものではありません。

相続放棄をするには、家庭裁判所できちんと申し立てという法的な手続きをする必要があります。また手続きには期限もあるので注意が必要です。

相続放棄の手続方法

1)必要書類を集める
相続放棄の法的手続きでは、次の書類が必要になります。

  • 故人の戸籍謄本
  • 故人の住民票
  • 相続放棄する人の戸籍謄本
  • 相続放棄申述書(相続放棄をするための申立する書類)
  • 郵便切手(返送用。料金は申述先の裁判所に確認)
  • 収入印紙800円(手数料の代わり)

※故人と相続人の関係性によっては、その他の書類が必要になる場合もあります。

2)相続放棄申述書を作る
相続放棄の申述書を、規定の書式に従って記入していきます。相続放棄申述書の書式は、裁判所のホームページから無料でダウンロードすることができます。

相続の放棄の申述書 書式のダウンロード

なお書式内容は相続放棄人が二十歳以上の場合と未成年の場合で異なるので、十分に注意しましょう。

3)裁判所に提出する
相続放棄の申述書および必要書類は、被相続人(亡くなった人)の住所の管轄にある家庭裁判所に提出します。管轄区域は裁判所のホームページで確認できます。

裁判所の管轄区域

4)照会書に回答する
裁判所から送られてくる照会書に対して回答を行います。

5)受理通知書が届く
申述書・照会書に問題がなければ相続放棄申述受理通知書が到着し、晴れて相続放棄の完了です。

手続きは死亡後3ヶ月以内に!

相続放棄の手続の期限は「相続の権利があると知ってから3ヶ月以内」です。カンタンに言うと、故人が死んだことを知って3ヶ月以内、ということになります。

この3ヶ月の期間は「熟慮期間(じゅくりょきかん)」と呼ばれています。遺産を相続すべきかどうなのか、相続人が方針を決めるべき猶予の期間というわけです。

3ヶ月を過ぎても手続きをしていない場合には「単純承認」とみなされ、故人の遺産を相続したことになってしまいます。故人の資産状況を確認するのに時間がかかり、3ヶ月以内に間に合わない…という場合、稀に特例として猶予が認められることもありますが、原則としては期限は3ヶ月であり、特例が却下されるケースも珍しくありません。

相続放棄をするかどうかの決断ならびに手続きは、できるだけ早くに行いましょう。

法的単純承認に要注意!

相続放棄をするつもりがあっても、手続きの期限内であっても、あなたの行動によって相続放棄ができなくなってしまうことがあります。これが「法的単純承認(ほうてき・たんじゅん・しょうにん)」です。

法的単純承認とは「相続の意思があるとみなされる行動」を取った場合、遺産を受け継ぐことを認めた、とされてしまう……という意味。民法第921条1号によって、次のような行為が単純承認であると決められています。

【民法第921条】
一・ 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

カンタンに言うと、次のような行為をすることで遺産放棄ができなくなってしまうのです。

  • 遺産を処分する
  • 経済的価値がある資産を売る
  • 故人のものを片付ける

例えば「故人の書籍を古本屋に売った」というだけでも、遺産を処分したことになりますから、相続放棄ができなくなります。後から相続放棄の手続を取っても意味がなくなってしまう可能性が大。十分に注意する必要があります。

相続放棄したら形見分けして貰えない?

上で解説したとおり、相続放棄では「故人の財産を受け取ること」も「故人の資産を処分すること」もできなくなります。ここで困ってしまうのが、形見分けの問題です。

遺産放棄をしたら、思い出の品のひとつも分けて貰えなくなるのでしょうか?これについては心配はありません。資産価値の無いものであれば、形見分けをすることができるのです。

【資産価値の無い形見分けの例】

  • 故人の手紙
  • 故人の写真・アルバム
  • 故人が着用していた衣類
  • 故人の愛用品(万年筆・めがね)等

ただし次のような場合には「資産価値の承継」「承継の隠匿」とみなされ、相続放棄ができなくなることも。形見の内容・量・記録には注意しましょう。

高級品・貴重品の形見分けは避ける

例えば「故人の愛用品であったから」といっても、真珠のネックレスやダイヤの指輪といった高級品を形見分けして貰うのはNG。

資産価値があるとみなされてしまいます。また書画・骨董品・着物・書籍・ブランド品・コレクション品等も避けた方が良いでしょう。カンタンに言うと「売れそうなもの」は避けるべきです。

形見は最小限に

「タンスの衣類をすべて形見分け」といった大量の形見分けもNGです。相続の隠匿とみなされ、単純承認とされてしまう恐れがあります。

口頭・記録なしの形見分けはNG

形見分けの際には「何を形見分けとして受け取ったか」を文書にして記録し、写真・動画等にも納めておきましょう。口頭のみで適当に形見分けをすると「資産価値のあるものを受け取った可能性がある」とみなされます。

遺品探しの作業には加わらない

相続放棄の意思がある場合、形見分けの前の遺品探し(遺品整理)の作業には加わらない方が良いです。また実際に形見を受け取るのも、相続放棄の手続が完了してからにすることをおすすめします。

相続放棄したら遺品整理はできない?

故人の住居・部屋全部の遺品を整理し処分する「遺品整理」は、相続放棄しても行えるのでしょうか。

遺品整理は避けた方が良い

相続放棄検討中の遺品整理は、原則として行わない方が良いです。これには次のような理由があります。

  • 遺品整理を行った(大量の遺品を処分した)=法的単純承認とみなされやすい
  • 経済的な価値がある遺品があったかどうかが判断しにくい

上の「形見分け」の項目で解説したように、資産価値が無いものについては処分・承継をしても相続放棄には問題が無いとされています。しかし部屋全体・家屋全体をご遺族が遺品整理する場合、「資産価値があるものを触っていない」と証明することが難しく、承継の隠匿と判断されてしまうことがあるのです。

孤独死については特例がある

相続放棄前に遺品整理が早急に必要になる――このようなケースもあるものです。例えば亡くなった親族が独居(一人暮らし)で孤独死をしたケースや、殺人等の事故死があったケースですね。

【特例の一例】

  • 故人の自殺・孤独死
  • 腐臭によるトラブル・クレームが起きている
  • 故人の居室が賃貸物件(賃貸マンション・アパート等)

このような場合、放置をしておけば腐臭等の問題はどんどん広がってしまいますし、「特殊清掃」も早めに行わなくてはなりません。そのため遺品整理を行っても問題ないと言われています。

ただしケースによっては特例が認められないこともあるため、事前に弁護士や遺品整理業者等の専門家に相談をしておいた方が良いでしょう。

専門業者を利用した方が安心

上のような特例等で遺品整理を行う場合には、遺品整理業等の専門業者に作業を依頼した方が安心です。相続放棄をする予定がある人が遺品に触れてしまうと、相続意思があると考えられ、単純承認とみなされてしまう恐れがあります。

その点遺品整理を行っている業者の中には、処分するもの・保管するものを区別し、その整理内容や作業内容を動画・写真等に記録してくれるところもあります。

相続放棄しても遺品整理の義務はなくならない?

相続放棄をしても、次のような場合には遺品整理等の財産管理の義務は残ります。

賃貸借契約の連帯保証人だった場合

故人が契約していた賃貸借契約において、あなたが連帯保証人となっていた場合、賃貸物件の原状回復を行う義務の放棄はできません。

相続人としての責任は「相続放棄」で回避できたとしても、生前に行われていた賃貸借契約の「連帯保証人」としての責任は遂行しなくてはならないからです。

ただ「賃貸借契約時の連絡先」として名前を書いている場合と、「連帯保証人」としての扱いはまったく違いますので、賃貸借契約書をよく確認することをおすすめします。

財産の管理義務がある場合

民法第940条では、次に相続をする人が財産を管理できるときが来るまで、相続放棄をしても相続人には管理義務があると定められています。

つまりご遺族全員が相続放棄をして誰も故人の財産を相続しない場合等には、相続人全員に管理義務は残っており、故人の居室の遺品整理・特殊清掃等の管理を行わなくてはならないわけです。

この管理義務を放棄したい場合には、財産管理を別途代行してもらう「相続財産管理人」を専任してもらうという手もあります。ただしこの申立には多数の提出書類が必要となる他、手続きも煩雑で手間がかかるのが実情です。

多少の費用がかかっても、弁護士・司法書士等の専門家に依頼をした方がスムーズに手続きができることでしょう。

おわりに

亡くなった親の部屋を良かれと思って自分で片付けたら、相続放棄ができなくなってしまった……遺品整理の現場では、このようなトラブルも多く見られています。相続放棄のメリット・デメリットを比較した上で早めに方針を決めること、不明な点があればできるだけすみやかに専門家に頼ることが大切です。

 

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