3人に1人が高齢者という超・高齢化社会を迎えた日本。そんな中、社会問題ともなっているのが認知症によるゴミ屋敷や汚部屋といった「家が荒れる」問題です。親が認知症らしくて家が片付けられず困っている…そんな人の数は年々増えていると考えられます。
親が認知症になった場合、家の片付けはどうやって行ってゆけばよいのでしょうか。
親が認知症?気をつける「兆候」は
「もしかして親が認知症かもしれない…」息子・娘世代が親の異変に気づくのは、その多くがお盆やお正月に帰省し、実家を見た時であると言います。どのような兆候が見られたら、親が認知症である可能性が考えられるのでしょうか。
掃除が行き届いていない
「以前に比べて部屋が汚くなった」と感じたら、気をつけるべき最初の状態と言えます。もちろん、単に高齢化で体が辛く掃除が甘くなったり、視力の衰えで掃除が行き届かないこともあるでしょう。ご本人も「歳のせい」にすることが多々あります。
しかしご高齢で体が辛くても、元々キレイ好きな方だとホコリを溜め込まないようにするものです。
- あちこちにホコリが溜まっている
- モノが散乱するようになった
- 収納をきちんと使えていない
このような兆候が見えたら認知症に注意を払った方が良いでしょう。
判断が以前と違う
「もしかして親が認知症かも?」と感じたら、親の態度に気を配ってみてください。周囲に対する「判断」が以前と変わってはいないでしょうか。
- モノを捨てたがらない
- 不要なものを欲しがる
- 賞味期限に対する判断がおかしい 等
「捨てる/捨てない」「欲しがる/手放す」等の判断が以前とはなにか食い違っている…このような違和感を見逃さないことが大切です。
「盗まれる」への過剰な不安
モノを盗られる、盗まれることに対して、大きな不安感を覚えてる様子は見られませんか?
- 金庫を欲しがる
- 鍵を付けかえたがる
- 大切なものを隠そうとする 等
詳しくは後述しますが、これも認知症の初期症状のひとつです。
部屋に入らせない
実家に戻った時に、親の私室や書斎等に入るタイミングを作ってみましょう。家や部屋にすんなりと入ることができますか?
- 実家や部屋に入れたがらなくなった
- 入らせない部屋ができた
- 「片付いていないから」と言うようになった
これは部屋が荒れ始めている可能性が高いです。認知症等の何らかの事由で片付けがきちんと行えないままになっており、最悪の場合にはゴミ屋敷化している恐れも考えられます。
なぜ溜め込む?認知症の部屋が荒れる5つの理由
認知症で家が荒れる、片付かなくなる理由には、主に以下の5つが挙げられます。
1.物盗られ妄想
認知症の主な症状に「物盗られ妄想(ものとられ・もうそう)」があります。実際には泥棒は居ないのに、財布や大切なものがなくなったと決めつける症状です。
泥棒と妄想する相手は家族であったり他人であったり様々。本人は「大切なものを自分から離そうとする」と考えるため、部屋の片付け等にも強く抵抗します。
2.「もったいない」の思想
現在の高齢層は若い頃に苦労をした方も多いもの。認知症等が進むと子供の頃や若い頃の感覚が蘇り「使えるモノ/食べられるものを捨てるのがもったいない」という強迫観念に囚われてしまうこともあります。
3.価値判断の曖昧化
認知症では「捨てて良いもの」「捨ててはいけないもの」の価値判断がうまく行えなくなったり、ものごとの判断が極端になってしまいがちです。「捨てられない」になったことから「何もかもを捨ててはいけない」と極端な判断になってしまうこともあります。
4.怒りや悲しみの転嫁
ゴミ屋敷化した高齢者の中には、配偶者との死別等によるストレスが引き金となって「溜め込み」をしているケースもあります。うまく表現できない「怒り」や「悲しみ」「寂しさ」等が、ゴミを溜め込む行為として発露してしまうのです。老人性うつ病が原因となっていることもあります。
5.ゴミ捨ての変化についていけない
昭和の時代と現代では、ゴミの捨て方のルールも大きく変わってきました。「粗大ごみが有料化して申し込み方法がわからない」「粗大ごみが重くて動かせない」「ごみ集積所が減ってゴミを運ぶのがおっくうになった」…このような単純な理由が、ゴミ屋敷化・汚屋敷化する最初の一歩ということもあります。
認知症の親の家・片付けNG例と注意点
「認知症の親の家を片付けたい!」と思いついたからといって、いきなり何の計画も無しに部屋を片付け始めるのはNGです。
認知症の家の片付け例では、片付け方法で失敗をしてリバウンドをしたり、認知症が悪化するケースも見られています。
認知症によるゴミ屋敷化や部屋のモノの散乱等が見られた場合に注意すべき点にはどのようなものがあるのでしょうか。
家族が大掛かりに片付けを始める
一番避けたい片付けの方法が、息子や娘世代が目の前で勝手にどんどん片付け始めてしまうというものです。
- 大掛かりな片付けを突然開始する
- 目の前でゴミを捨て始める 等
認知症で家が荒れる理由には上で解説したように様々なものがあります。親にとって、一見ゴミにしか思えないものも「大切だ」と感じている状態であることも多いのです。
そのような時に息子・娘世代が突然ゴミをどんどん捨て始めると、親は混乱し、強い拒否感を持ってしまうことがあります。
キレイに片付けすぎる
もうひとつ気をつけたいのが、片付けの仕上げ方です。
- 収納方法等が大きく変更されてしまう
- モデルルームのように片付いている
- 何がどこにあるのか把握しにくい 等
「片付け」というと自分の部屋のような感覚でピシッと片付けてしまう方が大勢居ます。しかし認知症が始まっている親世代にとって、「どこに何があるのか把握できなくなる」というのは大きな不安でしかありません。
ゴミを溜め込んだことを叱る
最後に気をつけたいのが、感情面の問題です。
- 「なぜこんなに汚した」と怒る
- 感情的に「片付けろ」と
- 家族間で作業の押し付け合いをする 等
認知症となった親は、家族に悪意を持って家を汚しているわけではありません。家族から責められたり感情的になじられるほど、親世代はストレスを抱え、認知症を悪化させる結果となることもあります。
親が認知症の場合の家の片付け方法
片付けの「問題」と「目的」を話す
まず認知症が初期症状であり、親との対話等意思疎通がある程度できる場合から考えていきます。この場合、まずは親と「家を片付ける理由」についてきちんと話をしていきましょう。
親世代は「なぜ自分たちの家を片付けることを、息子や娘に押し付けられるのだろう?」という問題をそもそも理解していないことが多いのです。
高齢化した体でも使いやすい家にする 等
「安全確保」は実際に大事な問題です。モノが散乱した部屋で転倒してから骨折して寝たきり…といったケースはけして珍しくありません。「安全に気持ちよく暮らすために部屋の片付けを見直す」ということを、できればご両親に納得してもらえるのが理想的です。
「ゴミの捨て方」を補助する
これも認知症が初期の場合ですが、「ゴミを捨てること」がうまくできなくなっているかも…という場合には、自治体やホームヘルパーの手を借りる方法を薦めてみましょう。
自治体のゴミ出し支援を使う
各自治体では、高齢者向けの「ゴミ出し支援」の政策を行っています。例えば粗大ごみの運び出しの支援を行ったり、集積所が遠くてゴミを持ち運ぶのが辛いお年寄りに変わって、週に1~2回職員がゴミ収集に自宅まで伺うといったサービスです。
ゴミ出し支援政策の内容や申込方法は、各自治体によって異なります。親が住んでいる自治体の役所に「ゴミ出し支援」があるかどうか確認してみましょう。
ホームヘルパーの手を借りる
「ごみ捨ての曜日を忘れるようになっている」といった行動の「抜け」が増えてきている場合には、ホームヘルパーの利用を考えてみるのも手です。
ホームヘルパーとは家を訪問して介護を行う「訪問介護サービス」を行う専門家のことを言います。ヘルパーのサービス内容には「身体介護」と「生活援助」の2種類がありますが、ゴミ捨て等の介助は「生活援助」の一環です。介護保険制度を利用すれば、意外に安価な料金で定期的にホームヘルパーに来てもらうことができます。
親の「執着」のポイントを探る
認知症による軽い物盗られ妄想があったり、家の中の「こだわり」があるように見られる…そのような場合には、親が執着するポイントを見定めることも大切です。
大切なところは一緒に片付ける
特に強い執着が見られる箇所(例えば洋服、貴金属類、現金類がある場所等)は、できる限り親と一緒に片付けるようにしてみましょう。
「よく見える収納」にしてみる
親が大切にしているもの、こだわっているものほど、すぐに「ある!」と確認できる保管・収納の方法にしてみましょう。例えば透明の保管ボックスであれば外側からでも「モノがある」ことがわかって安心ですよね。
またラベルや絵・写真等を収納箱につけて、中身が把握しやすくしてあげるのも手です。
「見えない場所」にしまいこまない
親の執着が強いものは、親が普段暮らしている部分から遠い場所にしまいこまないようにしましょう。例えば親が足を運びにくい2階フロア等にモノをすべて運んでしまうと「なくなった」という不安が強くなり、リバウンドしてしまいやすいです。
「まずは一箇所」からスタート
これも認知症の初期症状の場合ですが、親が息子・娘達家族と一緒に片付けができる場合、いきなり全部の部屋を片付けようとしない方が良いかもしれません。
親の「執着」が弱そうな部屋を狙って「まずは一箇所」片付けることから始めるのもテクニックのひとつです。
快適さを体感させる
例えば親の私室や寝室ではなく、ダイニング一部屋だけを片付けたとします。スッキリと片付いた部屋は動きやすいですし、見た目も明るくなりますね。「片付いた=快適だ」という気持ちを体感させることが、「他の部屋を片付けても良い」と感じる原動力になります。
「少しずつ片付ける」方法も
認知症がやや進んでいる場合には、「少しずつ片付けていく」という方法の方がうまくいく場合もあります。
ゴミはわからないように捨てていく
例えばレジ袋やティッシュペーパーといったあきらかな「ゴミ」が散乱している場合、本人の目線がそれているうちに静かに収集して、後でわからないように捨ててしまいましょう。
「捨てますよ!」とアピールをされると認知症が進んだ親はガンコになってしまうことがあります。
デイケアの間に少しずつ片付ける
デイサービスまたはデイケアを利用して、親に昼間に家を開けてもらうようにするのも手。親の不在の間に、少しずつ不要なものを片付けていきます。
この場合、ハッキリスッキリと片付けないのがコツ。一度に全部捨ててスッキリさせてしまうと、本人が気づいて騒いだり暴れてしまうことがあります。「捨てられている」と気づかないようにするのがポイントです。
家の片付け専門業者の手を借りる
さて上で解説した「片付けの方法」は、いずれも認知症の初期症状~少し進んだ程度のところまでの場合です。認知症がさらに進んで家が次のようになっている場合には、ご家族の手に負えない状態となっているケースが多々あります。
- 家が完全にゴミ屋敷化している
- 害虫が多数発生してしまっている
- 糞尿等による汚れが見える 等
またご家族が遠方であったりお仕事がある場合等だと、なかなか「少しずつ片付けていく」という方法を取るのも難しいものです。このような場合には、専門の片付け業者・ゴミ屋敷清掃業者等に早めに依頼することをおすすめします。
専門業者なら片付けは最短一日で完了
不用品回収やゴミ屋敷清掃などの専門業者であれば、家の片付けは原則として一日で済みます。大きな一戸建てで天井までゴミで埋まっているようなゴミ屋敷の場合でも、2~3日以内にはスッキリとさせられることがほどんどです。
感染症・転倒等のリスクを回避
荒れ放題になっているゴミ屋敷だと、感染症等の病気に罹ったり、転倒して骨折するといったリスクが格段に上がります。業者の手で短時間で片付けを行えば、このような危険性は速やかに回避できます。
第三者が入ると冷静になれることも
親子間だけで片付けを行おうとすると、親世代も感情的になり暴れたりしてしまうことが多いものです。しかし業者等の第三者が入ることで親世代も冷静になり、淡々と片付けに賛同できるケースは多く見られます。
「病院やデイケア施設等ではしっかりしている」といった傾向が見られる場合、特に業者の介入はおすすめと言えるでしょう。
おわりに
親が認知症となった場合の家の片付けについて、様々な注意ポイントをご紹介してみましたが、情報はお役に立ちそうでしょうか。上でも解説したとおり、認知症の場合の家の片付け方は、その症状の程度によっても変わってきます。
「認知症の症状が重いようだ」「家の荒れかたがひどい」という場合には、ご家族だけでムリに対応しようとせず、自治体や業者等の第三者に頼るようにしましょう。