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賃貸アパート・マンションで遺族が行う退去手続きと費用

賃貸アパート・マンションで遺族が行う退去手続き

核家族化や高齢化が進む中、離れて暮らす親や家族・親族が亡くなり、故人が暮らしていた賃貸アパートやマンションの退去手続きを遺族が行う事例も増えました。

突然の慣れない手続きに慌てふためき、不動産管理会社に言われるままに従った結果、不要なほど高額な賃貸アパート・マンションの退去費用を支払ってしまった…といったケースも見られるようです。

ここでは故人が賃貸アパート・マンションにお住まいだった場合、遺族が行う手続きや費用、支払い責任等について詳しく解説をしていきます。亡くなったご家族・ご親族が住まれていたのが賃貸物件である場合の参考になれば幸いです。

1.相続人と支払い代表者の確認

故人が住んでいた賃貸アパート・マンションの退去・解約手続きを行う前に、まず「相続人全員分の意思」「誰が賃貸アパート・マンションの退去費用の立て替え・支払いを行うか」を確認しましょう。

支払い責任は「遺産相続人全員」にある

賃貸アパートやマンションの賃貸借契約や、公共費の支払い義務等は、故人の死亡によって解約・解消となるものではありません。つまり次のような費用の支払い責任は、相続人が受け継ぐことになります。

  • 退去までの家賃
  • 未払いの家賃
  • 原状復帰のための費用
  • ガス代・電気代 等

遺産相続人が複数いれば、これらの費用は人数で分割して支払うことになります。相続人が配偶者や子どもで4人居るなら、4人で分割して支払い義務を負うわけですね。これらの支払い責務が生じることは、法定相続人全員に知らせなくてはなりません。

相続放棄者には支払い責務無し

相続人が「相続放棄」の手続きを正式に行っている場合は、遺族であっても賃貸アパート・マンションの退去手続きや費用支払の責務は負いません。

ただし賃貸アパート・マンションの家賃や費用支払いのような「マイナスの遺産」は相続放棄して、土地や現金などの「プラスの遺産」だけを相続することはできません。少額であっても遺産を相続する場合は「相続放棄の意思なし」となり、放棄はできなくなります。

また相続放棄手続きは故人の死亡を知ってから3ヶ月以内に正式に家庭裁判所に対して申立を行う必要があります。単に親族に「相続放棄する」と言うだけでは放棄と見なされませんので注意しましょう。

代表者が立て替えて遺産分割協議で精算

賃貸アパート・マンションの退去等にかかわる費用は、本来は上記のように「相続人全員で分割して支払う」ことになります。しかしノンビリと分割協議をしている暇はありません。賃貸物件の場合、すぐに解約・退去の手続きを行わないと、それだけ多くの家賃が発生してしまうからです。

そのため賃貸アパート・マンションの退去に関わる費用は、相続人一名が代表して立て替え、支払いを行うのが一般的です。

支出分(契約書・領収書など)はすべて紙形式で記録しておき、後の遺産分割協議で提出します。他の相続人は自分の遺産相続分から、退去費用の分割を差し引いて相続します。

故人の口座や現金からの費用支払はNG

賃貸アパート・マンションを遺族が退去手続きする場合、家賃支払や退去に関わる費用を故人の口座や現金から支払うのは避けた方が良いです。遺産分割協議の内容が決定するまで、口座の中身は相続人全員の共有財産とされます。勝手に引き出して支払いを行えば、相続紛争の原因になりかねません。

代表者が自分の財布から費用を出し、後から遺産分割時に請求を行うのが最も適切かつ、トラブルを防ぐことができます。

2.<自宅での死亡の場合>特殊清掃

故人が賃貸アパート・マンションである自宅で亡くなった場合には「特殊清掃(とくしゅせいそう)」が必要となるケースが多いです。特殊清掃とは、ご遺体から出た体液や、それによる死臭等を除去するための清掃作業のことを言います。故人が病院等、住居以外で亡くなった場合にはこの手続きは必要ありません。

特殊清掃は専門業者に依頼

ご遺体の発見が遅れた場合の死臭や体液付着による変色は激しいものであり、ご遺族だけでの清掃作業は困難です。また作業が遅くなるほど周囲への悪臭被害が広がりやすいため、できるだけ早く専門業者に依頼することが重要となります。

特殊清掃作業の例

  • 腐敗臭・死臭の除去
  • 血液・尿等の体液付着した品の除去や処分
  • 床や壁の清掃
  • 浴室・トイレでの死亡の場合はその箇所の特殊クリーニング
  • 変色があった場合は床張替え、壁張替え等

賃貸アパート・マンションの場合、特殊清掃業者を不動産管理会社や大家さんが推薦することもありますが、必ずしも推薦業者を選ぶ必要はありません。ご遺族が自身で特殊清掃業者を探し、作業依頼をすることもできます。(ただしリフォーム作業等が発生する場合、不動産管理会社側の許可が必要となる場合もありますのでご注意ください)

なお後述する「遺品整理(家財等の搬出や処分)」と特殊清掃を一挙に行える専門業者もあります。お急ぎの時や費用を抑えたい時等は、このような業者を検討するのも手です。

特殊清掃の費用の負担は遺族?

賃貸アパート・マンションにおける特殊清掃の費用負担については、裁判でも判例が分かれています。つまり遺族側が払うべきか管理側が負担するのか、法的にも考え方が決定していないということです。

  • 判例1:自然死による特殊清掃のオゾン脱臭費用は遺族側とする
  • 判例2:刺殺による部屋の汚損に遺族側の責任はなく管理側の負担とする
  • 判例3:自然死による梁の張替え等の大掛かりなリフォーム負担は管理側とする 等

ただし次のような場合には「入居者側(遺族側)に過失あり」として、特殊清掃の費用を遺族側に求められる事例が多く見られます。

  • 故人が自殺の場合
  • 死亡率が高い病気にも関わらず、家族が入院させていなかった場合
  • 遺族側が電話連絡等に出ず遺体発見が遅れた場合 等

上のようなケースでは、特殊清掃の費用負担は遺族側になりやすいと考えた方がよいでしょう。いずれにせよ特殊清掃費用負担については不動産管理会社側とよく話し合うことが大切です。納得の行かない場合には、弁護士等の法律専門家に早めに相談しましょう。

3.退去日の取り決め・家賃の支払い

民法では賃借人が死亡しても賃貸借契約は終了しません。そのため相続人が賃貸借契約を終了させるまでは家賃が発生し、支払い義務が生じます。そのため、早めに退去日や解約予定日について管理側と取り決めを行うのが一般的です。

遺品整理を考慮した退去日設定を

通常の引越しと同じく、退去日までには家財類はすべて搬出し、即時でハウスクリーニングできる状態で明け渡さなくてはなりません。退去予定日に家財が残っていると「解約できない状態」と見なされて家賃がさらに発生したり、家財撤去のための費用請求が行われることがあります。

そのため退去日の取り決めでは、遺品整理(家財の撤去)にかかる期間を考慮しておくことが大切です。

  • 故人の住んでいた賃貸アパート・マンションが遠方である
  • ご遺族だけでの家財搬出が難しい
  • できるだけ早く賃貸アパート・マンションを解約したい

上記のような場合には、遺品整理の専門業者に片付けを依頼することも早めに検討しておいた方が良いでしょう。遺品整理業者の費用については、下の「5」の項目で詳しく解説します。

未払い家賃は早めに精算を

故人が生存中に未払いの家賃があった場合、その費用負担も相続人が負うことになります。契約内容によっては未払い家賃が精算されるまで賃貸借契約が終了できない可能性がありますので、不動産管理会社には早めに支払い状況等の確認を取っておきましょう。

4.公共料金等の停止解約手続き・費用支払

賃貸物件の退去手続きを遺族が行う場合、忘れてはいけないのがガスや電気・水道などのインフラ料金の停止・解約手続きです。

水道

故人の住居がある自治体の水道局で、契約人死亡による解約手続きを行います。なお遺品整理・清掃等でも水道を使う必要があるため、退去日ギリギリまでを水道の解約日とするのが一般的です。

電気

故人が契約していた電気会社で解約手続きを行います。現在は電気会社が複数あるため、口座の引き落としや請求書等から契約会社を探しましょう。

ガス

故人が契約していたガス会社で、契約人死亡による解約手続きを行います。

インターネット

故人が住居に固定ネット回線を引いていた場合には、その解約手続きも必要です。

固定電話

故人が固定電話回線をお持ちだった場合、解約するか、または名義変更をして回線名義を相続人が引き継ぐこともできます。

【公共料金の費用負担は?】
明け渡しまでに発生する各種公共料金の費用負担も、相続人が分割して負担することになります。代表者が一時的にポケットマネー等で支払い、あとから遺産分割協議の際に請求をしますので、請求書や領収書は必ずまとめておきましょう。

5.遺品整理(家財搬出・不用品処分)

不動産管理会社と取り決めた退去日までに、故人の部屋の片付けをしなくてはなりません。残された家財や日用品等、遺品の分類や片付けについて見ていきましょう。

遺品整理・片付けの流れ

遺品整理(部屋の片付け)のおおまかな流れは以下のようになります。

1.遺品を分類する

すべての家財と日用品を、以下のように分類してまとめていきます。

  • 貴重品(現金、通帳、貴金属品など)
  • 愛用品(アルバムなど思い出の品など)
  • 形見分けの品(譲渡予定の品があれば)
  • リサイクル品(リユース・リサイクル可能な品)
  • 不用品(生ゴミ、衣類、使わない家電や家具等)
2.近隣への挨拶

遺品整理の搬出現場では引越作業と同じくらいの人の出入りがあります。またエレベーター等を専有し、他の入居者様にご迷惑をかける可能性も大きいですね。事前に近隣に挨拶し、片付け作業がある旨のお詫びをしておくのがおすすめです。

3.養生・搬出・搬送

養生(ようじょう)とは搬出時に床や廊下等に傷をつけないよう、建材を保護する作業のことです。養生が甘いと大きなキズを作り、原状回復義務が生じるケースがありますので注意しましょう。また大きな家具や家電がある場合、1Rでも男性2名以上の人手は必要です。ご遺族だけでの片付けを行う場合、人員確保は早めに行いましょう。

4.不用品の処分

遺品整理専門業者の場合には不用品処分はまとめて依頼できます。しかしご遺族自身が片付けを行う場合には、以下のような処分の手続きが必要です。

一般ごみ

住居のある自治体のルールに従って処分します。なお一度に大量の一般ごみをごみ集積所に出せない自治体もあります。事前に自治体のごみ処理事務所に確認を取っておきましょう。

粗大ごみ

自治体によって回収方法や料金が異なります。自治体によっては回収に1ヶ月程度の時間がかかる場合もありますので要注意です。

リサイクルゴミ

冷蔵庫・TV・エアコン等はリサイクル家電法で定められているとおり、粗大ごみとしての処分ができません。自治体に問い合わせ、引取先を確認しましょう。

遺族で片付けを行うメリット・デメリット

遺族だけで片付けを行ったり、大きな荷物の搬送を引越業者等に任せ、その他の作業を遺族が行う場合のメリット・デメリットを見ていきます。

メリット

  • 片付け費用を抑えられる

デメリット

  • 時間がかかる
  • 精神的負担が大きい
  • 人員が必要になる
  • 処分の手間がかかる
  • 家賃が発生し続けることになる

遺品整理で意外と大変なのが不用品(ゴミ類)の処分です。また亡くなった方のご遺品に触れることで、精神的な負担や多大なストレスを感じる方も大勢居ます。スケジュールどおりに遺品整理の片付けが進まず、家賃が長く発生してしまうケースも珍しくありません。

遺品整理業者に片付けを任せるメリット・デメリット

現在では遺品の分類から不用品処分までを専門に行う業者も登場しています。ご遺族の立ち会い不要で片付け可能等、ニーズに合わせたサービス展開をする業者も多いです。

メリット

  • 搬出から不用品処分まで全て任せられる
  • 作業は原則1日で終了する
  • 養生などもプロなので安心
  • リサイクル買取可能な業者もある
  • 遺品供養できる業者もある

デメリット

  • 業者への料金支払が必要

遺品整理専門業者に任せた場合、何より「早く確実に片付けられる」という点が魅力です。賃貸マンション・アパートの退去日が迫っていたり、処分すべき不用品が多い場合には、遺品整理専門業者にまかせた方が良いでしょう。

遺品整理の費用相場は?

遺品整理(故人の部屋の片付け)にかかる費用相場は次のようになっています。

1R~1K 50,000円~80,000円
1DK~2K 90,000円~130,000円
1LDK~2DK 130,000円~170,000円
2LDK~3DK 170,000円~210,000円

※地域や荷物の量で実際の料金は変動します。事前に無料見積もりを取る業者を選ぶことをおすすめします。

なお上でも解説しましたが、故人が自宅でなくなり特殊清掃が必要な場合は、特殊清掃と遺品整理の両方を同じ業者にまとめて依頼した方が費用を抑えやすいです。

6.ハウスクリーニング(原状回復義務)

明け渡しが済むと、不動産管理会社(または大家)が部屋の状況確認を行い、適宜ハウスクリーニング等を行います。費用が原状回復義務に当たる場合には、相続人側が費用負担を行います。

原状回復義務と費用負担

原状回復義務とは、カンタンに言うと「借りている側が通常の使用範囲を越えて汚損した場合には、元に戻すための費用を支払う必要がある」という義務のことを言います。例えば生前に故人が家具をぶつけたと見られる大きなキズが壁にあるような場合には、それを治すための費用負担は借り主側が負担するわけです。

反対に、次のような「一般的な使用による経年劣化」については、借りている側の費用負担の必要はありません。

  • 壁の日焼けによる色あせ・変色
  • 畳の日焼けによる色あせ
  • カレンダーを貼るための画鋲の穴 等

原状回復費用は、基本的に故人が契約時に支払っている「敷金」からの支払いとなります。ただし汚損状況が激しく、現状回復に必要な費用が敷金を越える場合には、相続人に費用請求が行われます。

部屋の写真を撮っておこう

遺品整理で片付けを行った後には、写真撮影をしておくことをおすすめします。そうすることで「明け渡し前の部屋の状況」の証明ができるためです。現在では片付け後に写真撮影をしてくれる遺品整理業者もあります。片付けに立ち会いができない場合には撮影サービスを使ってみるのも手です。

7.賃貸借契約の解約・敷金の変換

家賃の支払いや各種費用の精算が終了したところで、不動産管理会社(または大家)との賃貸借契約の終了となります。故人が契約時に支払った敷金が原状回復費用・ハウスクリーニング等を差し引いても余剰が出た場合には、相続人へと変換されます。

変換された敷金も「故人の遺産」ですので、遺産分割協議の対象となります。遺産分割協議の際には、この金額も忘れないように注意しましょう。

おわりに

故人が住まれていたのが賃貸アパート・賃貸マンションだった場合、遺品整理(片付け)が進まずに家賃が嵩み、結果的に遺産分割協議まで滞る…といったケースも多く見られます。

故人の自宅の広さや荷物量にもよりますが、誰も住まない部屋の家賃をムダに支払うことに比べれば、遺品整理業者等の専門業者に依頼をした方が結果的に費用負担が軽く済むことが多いです。

近年では翌日対応・即日対応といったスピード対応をする遺品整理業者も登場しています。部屋の片付けを後伸ばしにせず、このような業者におまかせをする方法も検討してみてはいかがでしょうか。

 

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