特養などの老人ホームを利用する高齢者が増える中、「親が老人ホームで亡くなった」というケースも珍しくなくなりました。老人ホームで危篤・ご臨終といった連絡が来て、突然のことに片付けなどの対処に困る人も少なくないようです。
ここでは親が老人ホームで亡くなった場合の各種の手続きや片付け・遺品整理の流れについて、詳しく解説をしていきます。
目次
1 連絡を受け施設へ向かう
老人ホームの入居者がご危篤またはご臨終との連絡は、契約時の緊急連絡先、または保証人に対して行われます。突然のことで驚かれると思いますが、できるだけ心を落ち着け施設へ向かいましょう。
次のようなものを用意しておくと、手続きがスムーズです。
- ホームとの契約書類
- 印鑑
- 保証人の本人確認書類(免許証など)
- ボールペンなどの筆記具
- スマホ/携帯電話
- 菩提寺やご親族の連絡先をまとめたもの
- 書類をまとめられるもの(クリアファイル・クリアホルダー等)
2 死亡宣告・死亡診断書の受け取り
ホーム居室でのご危篤並びにご臨終の場合、老健の場合は常勤配置医師が、特養の場合は嘱託医がいるので、それぞれの医師にて死亡診断(死亡宣告)を行ってもらいます。
この際に医師より「死亡診断書」を受け取ります。死亡診断書はこの後、各種の手続きで必要になる重要な書類です。大切に所持するほか、余裕があれば複写(コピー)をとることをお勧めします。
警察による検死となるケースもある
ホームによっては24時間往診対応可能な医師との提携をおこなっておらず、施設内での医師の死亡診断ができない場合があります。この場合には施設が警察を呼び、警察による検死となることも。またなんらかの事故などの可能性がある場合は、警察による司法解剖が必要となることもあります。
3.葬儀社の選択と葬儀関連の連絡
親が老人ホームで亡くなった場合、すぐに行わなくてはならないのが葬儀社の選択と決定です。
葬儀社を選ぶ
老人ホーム側から提携している葬儀会社を推薦されることもありますが、必ずその社を選ぶ必要はありません。ネット等で問い合わせて見積もり調査し、納得いく社を選ぶのが良いでしょう。
ただし老人ホームの場合、葬儀社選択は早めに行う必要があります。葬儀社が決まらないとご遺体の搬送ができないからです。病院であればご遺体専用の安置所がありますが、ホームではこのような対応ができません。
ご遺体の腐敗などの問題を避けるためにも、他の入居者へショックを与えないためにも、できるだけ早く搬送することを求められるでしょう。少しでも早いご遺体搬送のため、スピーディーな葬儀社決定が必要です。
菩提寺・宗教関連施設への連絡
お付き合いのある菩提寺や宗教関連施設があれば、そちらへも速やかに連絡を。菩提寺での葬儀が行えない場合でも、葬儀会場で読経してくれるケースも多々あります。
親族への連絡
通夜・葬儀の日程が決まり次第、親族への連絡を行なっていきます。日程決定後の連絡はできるだけ早く行うことが大切。自分ひとりで行うことが難しい場合には、親族のどなたかに連絡係を依頼しても良いでしょう。
4.死亡届と埋火葬許可証の申請
通夜葬儀を行うためには、公的に故人が亡くなったことを届け出たり、葬儀(火葬)を行うための申請手続きが必要です。葬儀規模に関わらず、たとえ直葬でも必ず行う手続きとなります。
死亡届の提出
自治体の役場窓口で行う手続きです。ホームのある自治体、または故人か届け出人の居住地の自治体でも行えます。死亡届の提出は、故人の死亡後7日間以内までが期限です。葬儀社で手続き代行が可能なので、急ぎの場合には依頼しましょう。
埋火葬許可証の申請
ご遺体の火葬(または土葬等)を行うための手続きです。死亡届提出後、同じく役場で行なえます。こちらも葬儀社での代行手続きが可能です。
5.ご遺体の搬送
葬儀社の手配で、ご遺体を次のいずれかの場所へホームから搬送します。
- 一度ご遺体をご自宅へ移す
- ご遺体を安置所で一時的にお預かりする
- ご遺体を直接、葬儀の場所へ搬送する
搬送については葬儀社とホーム側にお任せしてOK。ただしご遺体を一度、親御さんが以前にお住まいになられていたご自宅に移す場合などには、棺をご自宅に入れるための準備・養生なども必要になります。葬儀社と丁寧に打ち合わせをしておいた方が良いでしょう。
6.ホームとの打ち合わせ・退去日の決定
ご遺体の搬送が無事に済んだら、ホームとの契約解除や退去についての打ち合わせとなります。打ち合わせや支払いを行うのは、契約時の身元保証人です。
契約解除・精算のポイント
老人ホームの利用解約・契約解除時には、特に次のようなポイントが重要になります。
入居一時金の返還
入居一時金は、一定期間の退去の場合に償却分を除いて利用者に返金されるお金のことです。ただし初期償却費用の設定には統一した基準がなく、償却期間についてもホームごとの設定となります。契約時の償却費用設定について、契約書をよく確認しておきましょう。
原状回復費用の精算
老人ホーム利用の場合の原状回復費用については、「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」で国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にするべきとの取り決めが行われています。
ガイドラインでは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧する」と定められています。ざっくり言うと「普通の使い方より痛みが激しい場合には現状回復費用を払わねばならない」と言うことです。
【原状回復責任が発生した事例】
- 暴行などによる壁への傷、凹み
- 設備の破損
- 施設ルールに反した設備導入による毀損
- タバコの匂い、ヤニによる汚れ
- 家具移動により生じた傷 等
反対に通常の使用範囲内における経年劣化については、利用者側が費用負担をする必要はなく、利用料に含まれるものと考えられます。例えば壁の日焼け、カレンダーを貼ったことによるピンの穴程度であれば、壁の現状復帰費用の追加負担はないわけです。
退去時の月額費用
ホーム利用料のシステムについては、老人ホームにより大きく異なります。日割計算が可能なのか、食事などのサービス料と居住料は別なのか等は、ホームの契約書や料金表で確認を取りましょう。
老人ホームの退去日について
老人ホームの退去は、居室内の残置財産(家具、日用品などのすべての荷物)の撤去をもって完了となります。荷物の片付けが終わるまでは「居室利用あり」とみなされ、ホーム利用料が発生するのが一般的です。
片付けが終わらず月またぎ等をした場合には、1ヶ月分のサービス利用料が発生し、最終精算時のトラブルとなるケースも。ホーム月額利用料等の発生を抑えるためにも、すみやかに残置財産(部屋の家財)を片付けて退去することが大切です。
一般的な老人ホームの場合、居室の明け渡しの日程は、お亡くなりになったあとの一週間程度とされています。目安としておきましょう。
7.老人ホームの片付け方法の検討・業者の選定
退去日が決定したら、自分たちで整理や片付けを行うのか、業者に依頼するのかを決めましょう。また片付けの専門業者に依頼する場合にはその選定などを行います。
自分達で老人ホームの片付けをする
メリット
- 費用は抑えられる
デメリット
- 人手が必要
- 手間がかかる
- 時間がかかる
- 大型の車が必要
- 不用品も一度自宅へ搬送する
老人ホームの片付けを自分達で行う場合、大きな家具・家財などの搬出もすべて責任を負うことになります。また不用品の処分は基本的にホーム現地では行えません。詳しくは後述しますが、一旦すべての荷物を自宅へ引き取り、そこから処分するという手間がかかります。
作業する人への依頼は速やかに
親族達などで老人ホームの片付けを行う場合には、依頼はできるだけ早く行い、人数を確保するようにしましょう。通夜葬儀後に片付けのつもりでいたら人数が集まらず、結局後から業者を呼ぶことになった…といったケースも多々あります。
不用品回収・遺品整理業者に片付けを依頼する
メリット
- 片付けは原則1日で終わる
- 養生等に慣れているので安心
- 分類から不用品処分までまとめて行える
- 買取可能な業者もある
- 愛用品の物品供養ができる業者もある
デメリット
- 一定の片付け費用は発生する
遺品整理の専門業者であれば、老人ホームの片付けをすべてお任せできます。家具等の粗大ごみの搬出から不用品の処分まですべて任せられ、手間がかからずスピーディーなのが魅力です。また、状態の良い家具や福祉用具等については買取をしてくれる業者もあります。
ホーム提携業者もあるが自分で選んでもOK
老人ホームの残置財産(家財)の片付けでは、ホーム側から提携している不用品回収・遺品整理の業者を推薦されることも多いです。ただし必ずしも提携業者を選ぶ必要はなく、自分で選んだ業者に依頼をしてももちろんOK。いくつか見積もりを取って、料金の比較をしてみるのも手です。
荷物が少ないと片付け料金は割安
通常のご家庭の遺品整理の場合、業者を使った片付け料金の相場は1R(または1K)の場合、30,000円~80,000円前後となっています。ちなみに遺品整理の料金は、荷物の量やエレベーターの有無などで片付け料金は変動することが多いです。
老人ホームの場合、持ち込める荷物量に制限もあるため、片付ける家財が少ないケースがほとんど。また搬出に大型エレベーターを使える施設も多く、その分だけ料金が割安となるケースも多く見られます。
8.通夜・葬儀
通夜葬儀の流れは、葬儀社にほぼお任せで大丈夫です。最近では通夜を省略して一日で葬儀・告別式・火葬まで済ませる「一日葬」や小規模な「家族葬」、また通夜葬儀・告別式を行わず、火葬炉の前でのお別れのみとする「直葬」を選ぶ方も増えました。
葬儀スタイルはご家庭でそれぞれ異なりますが、次のような点には注意しましょう。
遺影・愛用品準備
葬儀で飾るため、遺影と愛用品の準備をします。最近のお写真が無い場合、老人ホームのイベント等で撮影データがあることも。ホーム側に相談してみましょう。
形見分けはホームの片付け後に
告別式・火葬後まもない形見分けは避けましょう。貴金属品などの資産価値がある品は特にNGです。相続とみなされ、今後の相続分割協議のトラブルの種になります。また老人ホームの片付けで資産価値がある「隠し遺産」などが後から発見され、トラブルとなるケースも。ホームの片付けを終え、すべての遺産リストアップを終えてから形見分けを行うのが理想的です。
9.老人ホームの片付け・遺品整理作業
通夜葬儀を終えたら、すみやかに老人ホームの片付け作業に入ります。退去日が決まっているのですから、スピード感を持って対処することが大切です。
自分達でホームの片付けを行う場合
ホームでの遺品整理の流れ
まずは老人ホーム居室の片付けの流れについて見ていきます。
- 遺品の分類
遺品を「貴重品」「愛用品(思い出の品)」「形見分けする品」「不用品」の4種類に分別し、ダンボール箱や袋等にまとめていきます。 - 荷物の搬出
まとめた遺品(荷物)を施設から搬出します。居室に傷が付くと現状回復費用が請求されるため、養生などをキチンと行うことが大切です。 - 自宅にて不用品処分
遺品(荷物)は一旦すべて自宅に持ち帰り、不用品の処分を順次行なっていきます。
不用品は現地で勝手に処分できない
老人ホームの入居者が残した遺品に不用品があり「ごみ」として処分したい場合でも、例えばホーム近隣のゴミ捨て場に勝手に捨てることはできません。老人ホーム入居者の不用品(ゴミ)は事業系一般廃棄物として扱われます。
「普通のゴミ」でもないし「事業系ゴミ」でもないので、処理ができないのです。ホームのある自治体で廃棄したい場合には、老人ホーム所在地の自治体に問い合わせ、処分を申請する必要があります。
手続きが煩雑なので、基本的には不用品はすべて保証人が自宅に持ち帰り、自宅で一般ごみとして処分していくのが一般的です。
ホーム側での処分は有料
老人ホーム入居者が残した家具や家財は「事業系ゴミ」の範疇に入らないため、ホーム側が勝手に処分することもできません。ホームに家財の処理依頼をする場合、ホームが仲介して不用品回収業者または遺品整理業者等を呼び、片付けや処分を行なうことになります。その分の料金は利用者側に加算されます。
衛生管理・感染症対策に注意
老人ホームの出入りでは、徹底した衛生管理・感染症対策への注意が求められます。
- 除菌スプレー等の持参
- マスクの常時着用
- 作業着への着替え
- 頻繁な検温 等
感染症対策のルールはホームによって異なります。施設側に事前によく確認しておきましょう。
片付け・遺品整理業者に依頼する場合
専門業者に依頼した場合の当日の流れ
- スタッフの到着
老人ホームにスタッフがトラック等で訪問します。 - 作業内容の確認
片付ける部屋や荷物量、搬送の有無等について、申込者と確認を行います。 - 養生
荷物を運び出すための養生をします。 - 遺品の分類
スタッフが遺品を「貴重品」「愛用品、思い出の品」「リサイクル可能な品」「不用品」に分類していきます。申込者から探索してほしい品が指定されている場合には、その探索も丁寧に行われます。 - 荷物の搬出
スタッフが荷物を搬出します。大型家財などの搬出もすべてまかせてOKです。 - 自宅への搬送
申込者自宅への搬送希望のご遺品があれば、搬送を行います。 - 料金精算
作業内容をすべて確認し、料金の支払い・精算をします。買取可能な業者の場合、買取した家財などは片付け料金から相殺されます。 - 不用品処分
不用品は専門業者側で、法令に則って処分します。
11.ホーム利用料金の精算
老人ホームのすべての片付けが終わったら、あらためて最終的な利用料金の精算や返金についての手続きが行われ、退去の完了となります。
なお、特に自分たちでの荷物搬出を行なった場合で多いのが「搬出時に床や壁に傷を作ったり、電灯等の美品を壊してしまい、現状回復費用が追加された」といったケースです。ホーム片付け作業では十分な養生と配慮をしましょう。
おわりに
親が老人ホームで亡くなった場合の手続きと片付けについて流れを見ていきましたが、やることの多さに驚いた人も多いのではないでしょうか。
老人ホームでの片付けは、一般的な住居に比べて「速さ」が求められます。ホームの片付けを業者に依頼する場合、翌日対応に応じてくれるなど、機敏な対応をしてくれる遺品整理業者を選ぶことも大切です。