デジタル遺品とは、スマホやパソコン等のデジタル機器内のデータやネット上に保存されたデータ、登録情報等を意味する言葉です。インターネット利用が常識となった現在、故人が多くのデジタル遺品を残すようになりました。デジタル遺品の遺品整理に頭を悩ませるご遺族も増えています。
デジタル遺品を放置して「しまった!」となる前に、きちんと対処していきましょう。ここではデジタル遺品について、遺品整理の方法や注意点、トラブル防止の対策等を解説していきます。
目次
デジタル遺品とは?スマホだけじゃない?
デジタル遺品について、おおまかに「スマホのこと」「パソコンのこと」と思いこんではいないでしょうか。デジタル遺品には大きく分けて4つの種類があります。
デジタル機器内部の保存データ
パソコンやスマホ等の機器の内部や、USB端末・SDカード内等に保管されている故人のデータです。
例
- パソコンのハードディスクに保存されたWordデータ
- スマホに入っている画像データ
- USB端末の中のアルバム
- SDカードの中の映像データ
- 外付けハードディスクの録画データ 等
お仕事で使われているものもあれば、故人の趣味のデータ等もあることでしょう。基本的に、端末内に保管されたデータはその端末からしかアクセスできません。(ただし近年では後述するクラウドデータサービスとデータ管理を併用している人も多いです。)
WEB上(クラウド上)の保存データ
例
- ブログ、ホームページ
- SNS(LINE、Twitter、Facebook等)のアカウント
- ネットショッピングのアカウント(Amazon、楽天等)
- クラウドストレージサービス(Google Drive、Dropbox等)のデータ
- 有料サービス・サブスクのアカウント(Netflix等)
- Webメールのデータ(Gmail、Outlook等)
上記のようなデータは、スマホ端末の中だけに保管されているわけではありません。インターネット上(WEB上)で管理されており、IDやパスワードがあれば、本人の端末以外からでもアクセスができます。
デジタル機器端末そのもの
例
- パソコン
- スマートフォン
- タブレット型端末 等
故人が使用していた端末(デバイス)そのものもデジタル遺品に含まれます。内部データを削除して初期化すれば、中身は空っぽになります。故人が亡くなった後に別のユーザーが利用することも可能です。
物理的な相続財産ともなるため、通常の「遺品」であるとも言えます。
デジタル遺産
「デジタル遺産」は、デジタル遺品の中でも直接的に資産価値があるものを指します。
例
- インターネットバンキングのID・PW
- ネット証券のアカウント
- 仮想通貨・金融取引のアカウント
- スマホ決済サービスのアカウント
ネットバンキングの資産等は財産相続・分与の対象となります。また不正アクセスや勝手な資産移動等は違法となるため、取り扱いには注意が必要です。
デジタル遺産は主にWEB上のデータです。ただし、そこにアクセスするためのIDデータ等は端末内部に保管されていることがあります。
デジタル遺品整理は重要?放置のデメリット
なぜ近年、デジタル遺品整理の重要性が叫ばれるようになったのでしょうか。それはデジタル遺品整理を行わずに放置すると、次のような甚大なトラブルが起こるためです。
月額・定額サービスの請求が続く
現在では月額・年額等で、継続的に料金が発生するサービスが増えています。
- ECサイト(Amazonプライム等)
- 動画サイト(Netflix、ニコニコプレミアム等)
- ゲーム(有料会員)
- 月額型の有料アプリ
- 定額使い放題サービス
- カーシェアリング
- フィットネスジム 等
「自動更新型」のサービスも多く、放置すると毎月・毎年の請求が続きます。支払いは主に引き落としかクレカです。故人の費用から料金が引き落とされるか、クレジットカードでの請求が続きます。
金融取引で借金が生まれる
故人が金融取引を行っていた場合、証券の値が下がったり、資産がマイナスになっている恐れがあります。
- FX
- ネット証券
- その他金融取引等
アカウントの乗っ取り被害
WEB上のアカウントが第三者に使われる「乗っ取り被害」は、現在急増しています。故人が亡くなり頻繁なログインが無くなったアカウントは特に狙われやすいです。
- SNSアカウント(Twitter、Instagram等)
- Amazon等のECサイトのアカウント
- メッセージサービスの乗っ取り
SNSアカウントが乗っ取られてスパムメッセージを飛ばす詐欺アカウントになったり、ECサイトが乗っ取られ、勝手に買い物をされる被害も出ています。
財産相続のトラブル
近年では、実店舗を置かないネット銀行も増えています。通帳が無いタイプの銀行もあり、ご家族がネット銀行の資産に気づかないままということも。
後からネットバンクの資産が発見され、相続内容が全てやり直しとなったケースも。故人の資産状況・遺産内容を正確に把握する上でも、デジタル遺品整理は重要なのです。
デジタル遺品整理を行う方法は?
では実際、デジタル遺品はどのように遺品整理していけばよいのでしょうか。
パスワードやID・登録状況の探索
近年のスマホやパソコンでは、多くが起動時にパスワード(パスコード)を求められる設定になっています。まずこれを突破しないと端末にアクセスができません。
まずは遺品整理のために必要となる情報を探してみましょう。
【探索したい情報の例】
- スマホ、パソコンのパスコード
- アカウントの登録リスト
- 各サービスのID、パスワード
- 有料サービスの登録情報 等
これらの情報はスマホやパソコン内部だけでなく、故人の部屋の中に遺されていることが多々あります。
故人の手帳、日記帳、終活ノート等
近年ではエンディングノート等にパスワード類をまとめて記帳している人も。残してあるものが無いか確認してみましょう。
クレジットカードの明細、通帳
クレジットカード(クレカ)の明細書や通帳の引き落とし内容をチェックすれば、有料サービスへの加入状況がある程度把握できます。
クレカが見つかったらクレカ停止・解約前に、明細確認を行った方が良いでしょう。
パソコン周辺のメモやノート
パソコンデスク周辺や書斎等があれば、その周辺に端末関連の情報が潜んでいることも多いです。
サービス解約・アカウント削除・死亡連絡
故人が登録していたサービスを把握でき次第、解約やアカウント削除、死亡による解除等の手続きを行っていきます。
ID・PWが揃っていれば原則解約可能
Web上のサービスは、IDとPW(パスワード)が揃っていれば、理論上、WEB上での解約が可能です。
IDとPWを入力してログインし、画面の手続きに従って「解約」や「退会」を選べば、解約手続きができます。
メアドで確認できるPWも
登録に使っていたメールアドレス(メアド)がわかれば、パスワード(PW)不明時にフォームから問い合わせする方法も。自動的に確認用メール(パスワード再設定メール)が登録メアドに届くので、比較的カンタンに確認ができます。
銀行・クレジットカード類は死亡手続きを
銀行やクレジットカード等、資産に直結するサービスには本人死亡によるサービス停止希望の手続きを行います。
各サービスのカスタマーセンターやヘルプのフォーム問い合わせ、本人死亡による解約手続きをお願いしましょう。
本人死亡時の手続き方法は企業によって異なりますが、「死亡診断書」または「除籍謄本」の控えの提出を求められることが多いです。あらかじめ準備しておくと良いでしょう。
SNSは死亡申請や追悼アカウントを
SNSはアカウント保持者以外のアクセスに対して対応が非常に厳しいです。アカウントの削除、死亡告知はそれぞれのサービスのルールに則り行うようにしましょう。
Facebook
所有者の死亡連絡を受け次第、追悼アカウントに変更するかアカウント削除が可能。問い合わせのフォームから、名前や日付、死亡を証明できる書類等を送付。
Instagram
Facebookとほぼ同じ対応です。
mixi
親族からの申し出によるアカウント削除・凍結等の対応は原則可能。除籍謄本などの提出が必要。
Twitter
ヘルプセンターより、「亡くなられた利用者のアカウント削除」を申請。故人の情報、連絡者の本人確認書類、故人の死亡証明書等コピー等を送付。
スマホ・パソコンデータの初期化
スマホやパソコンを中古販売する場合はもちろん、処分する場合も、データがそのままの状態で処分するのは危険です。
スマホ端末やパソコン端末の中にあるのは、故人の写真データ等の思い出だけではありません。クレジットカード情報や、仕事上の機密等、非常に重要な情報が遺されていることがあります。
初期化していない端末からはカンタンに情報が吸い出せてしまうので、甚大な個人情報漏洩となる恐れがあります。
データ削除ではなく「初期化」を
スマホやパソコンのデータを「削除」しただけでは、簡単にデータ復旧ができてしまいます。第三者に販売・処分等をする場合には、完全に初期化をすることが大切です。
重要機密はハードディスク破壊を
Windows等のパソコンでは、初期化後にも復旧ソフトを使えば一部データが復元できることがあります。故人の個人情報保護を重視する場合や、職務上の重要な情報等が含まれるパソコン端末の場合、ハードディスク(HDD)を物理的に破壊することをおすすめします。
HDD破壊サービスは、パソコンを扱う量販店や、一部の不用品回収業者などで行っています。
デジタル遺品整理で注意するポイントは?
壊れていてもデータ削除・初期化は必要
起動ができないパソコンやスマホでも、端末内部の記憶媒体からデータを抜き取ることは可能です。「壊れているから」と諦めず、きちんとデータ削除等の手続きを行った上で処分をしましょう。
相続人全員の同意を得てから行う
デジタル遺品も相続の対象に入ります。そのため、一部の相続人が勝手に販売・破棄等の処分を行うことはできません。
またネットバンキング等に資産を動かしたことで、相続人間で大きなトラブルが生まれることもあります。パソコンやスマホ端末にアクセスしデジタル遺品整理を行う際には、相続人全員の同意を得るようにしましょう。
スマホのロック解除に注意
現在のスマホは本人の指紋や顔認証以外に、パスコードが設定されているものが多いです。
パスコードがあればスマホのロックを解除できますが、よくわからない場合には無理に触らないこと!何度も間違うと完全にロックしてメーカーでないと解除ができなくなることも。
別端末からのロック解除をしようと誤った操作をして、端末を初期化してしまい、大事なデータを失ったというケースも見られます。スマホのロックが突破できない場合には、無理に操作を行わず専門業者に相談をした方が良いでしょう。
データのアクセスには十分に注意を
WEB上のデジタル遺品は、利用者本人以外のアクセスが禁止されていることがあります。これを破ってアクセスをすると「不正アクセス禁止法(不正アクセス行為の禁止等に関する法律)」に違反し、違反者は1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることがあります。
各サービスの利用規約等をよく読み、きちんと調べた上でデータにアクセスするようにしましょう。
デジタル遺品整理トラブルを予防するには?
デジタル遺品整理では、遺されたご親族が思いもよらぬ苦労をしたり、大きなトラブルとなってしまうことも多いものです。
トラブルを予防するには「デジタル生前整理」が大切!ご家族みんなが元気なうちに、次のような対策をしておきましょう。
生前から「デジタル断捨離」をしておく
定期的にサービスの登録状況を確認し、不要なサービスは解除・退会する習慣をつけましょう。また端末内の不要なデータも適宜、削除していきます。
一年に一度は「デジタル断捨離」「デジタル大掃除」をするクセをつけておくと、万一の際のご家族の手間もグッと省けます。
エンディングノートに情報をまとめる
エンディングノートや終活ノートにデジタル遺品関連の情報(登録状況、IDやパスワード、端末のパスコード等)をまとめて書いておきましょう。
「エンディングノートに記載がある」と家族に伝言をしておけば、デジタル遺品整理が大幅にスムーズになります。
おわりに
最近ではデジタル遺品整理にお困りの人向けに、IDやパスワードの解除、保存データの移行等を行う専門業者も登場しています。しかし中には悪質な業者もありますので、十分に吟味することが大切です。
またIDやパスワードを書き付けたエンディングノートや手帳が故人のお部屋に遺されたままになっており、ご家族が誰も気づいていなかった…というケースも多々見られます。デジタル遺品整理をする前に、まず通常の遺品整理をキチンと行って、故人の遺品の状況を把握しておきましょう。